ケネディスクールについて

ハーバード大学ケネディ行政大学院(通称ケネディスクール、HKS)は、1936年にハーバード大学に設立された公共政策大学院です。これまで米国はじめ、世界中に多くの政治家、行政官、研究者、さらに企業/NGO/NPOのリーダーを送り出してきました。

ケネディスクールの設立に尽力したLucius N. Littauer(1878年度ハーバード大学卒業生、ニューヨーク州選出下院議員)は以下のように語っています。

公共政策の発展においては、明確かつ明晰な思考が常に求められている。そのような思考は、将来の経済的・政策的問題を確実かつ誠実に解決することができるように高度な訓練を受けた人々によって生み出されるものである。この公共政策大学院は、そのような要求に答えなければならない。
Lucius N. Littauer、1936年”The John F. Kennedy School of Government,; The First Fifty Years”(1986年出版)より

設立当初の名称はGraduate School of Public Administration(GSPA)でしたが、1966年に故ジョン・F・ケネディ大統領の名を頂き、John F. Kennedy School of Government(ケネディ行政大学院)となりました。2008年からはHarvard Kennedy School(ハーバード・ケネディスクール)と称されています。

現在のケネディスクールのモットーは「Ask what you can do」です。もちろんケネディ大統領の有名な言葉の一節ですが、これはより良い世界のために自ら考え、実践することを求めています。また日米関係だけでなく、世界平和に尽力され、2025年5月に亡くなられたジョセフ・ナイ名誉教授(1995年~2004年 ケネディスクール学長)は、以前に卒業式でこう語りました。

卒業する君ら全員が、大統領や総理大臣になるわけではない。しかし君らが社会に復帰して、どんな小さな部分でも何らかの仕事を任されたとしたら、その君らが任された世界の小さな部分をよくするよう努力してほしい。一人一人が任された部分が小さなものであっても、一人一人がその小さな部分をよりよく変える努力をすれば、世界全体を変革することができる。幸運を祈る。

一般にハーバード大学というとエリート養成校と捉えられる向きもあるかもしれませんが、ケネディスクールでは、自らの経済的、社会的成功よりも、このような「より良い世界を創る」という理念に共鳴して入学してくる学生が多いと感じられます。

また、学生の多様性もケネディスクールの特徴です。世界中から、実に多様な人々が同じ「学生」という立場であつまっています。政治家・行政官だけでなく、王族、国連職員、軍人、ジャーナリスト、冒険家、経営者、企業OB、さらにその国で社会的に下層とされている人も集まります。年齢層も20代から70代と幅広く、国も、大国小国はいうに及ばず、実際に紛争を抱える国同士や、国がなくなった亡命中の人もいます。国際色が強いハーバード大学の中でも、ケネディスクールの多様性は突出しており、まさに小さなリアルワールドを一つのキャンパスに構成しています。
(2024~2025年度における留学生の割合は59%で、米国外の96か国・地域から学生が集まっています[MAP])

社会的・政治的課題の解決に必要なのは、時に複数となる相手の立場・主張・利害を理解し、徹底的に議論し、科学と法律と公正・正当性を考慮して合意点を探る努力です。ケネディスクールの学生に求められるのは、実に多様なバックグラウンドを持つ学生集団の中で、相手と協力し、積極的に(英語で)コミュニケーションをとり、特に議論をリードしてまとめる意思です。「多様性」の中での、リーダーシップ、学際性、理論と実践の融合こそが、ケネディスクールの特徴です。

国際的な秩序が不安定化し、またどの国も過去に直面したことのないような課題に向き合わなければならない現代において、今ほどケネディスクールのモットーと、故ナイ元学長の言葉が真に心に響く瞬間はありません。「より良い世界を創る」という理念のもと、ケネディスクールとその卒業生は、様々な立場と国で活躍しています。

ケネディスクールの学長

ケネディスクールの学長は、行政分野で実績のある研究者や行政官が就任しています。これまで、クリントン政権で国防次官補を務めたジョセフ・ナイ(1995年12月~2004年6月)や、クリントン政権で厚生省副長官を務めたデイヴィッド・T・エルウッド(2004年7月~2015年6月)、オバマ政権で議会予算局局長を務めたダグラス・エルメンドルフ(2015年6月~2024年6月)が就任しています。現学長はオバマ政権でホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)スタッフ(開発・民主主義担当ディレクター)、米国国連代表部首席スタッフ、国連代理大使を歴任し、同政権の外交政策に貢献したジェレミー・ワインスタイン(2024年7月~)です。

他にもケネディスクールでは世界各国の政治・行政経験者が多数教鞭をとっており、理論と実践の第一線を学ぶことができる公共政策大学院として、米国だけでなく、世界的にも高く評価されています。